【歯車計算に手間の掛かった多段ミッションの設計】
 
 エンジン性能の高回転化・高出力化に伴い、パワ−バンドは狭くなり、多段ミッションが必要となってくることは言うまでもない。スズキマシンの性能・変速段数の変遷を振り返ってみる。
 
 下表に「50cc・125ccの年度別各機種の出力性能と変速機段数」を示す。
 
        50cc・125ccの年度別各機種の出力性能と変速機段数
クラス 機種名 形式 吸入方式 Ps/rpm 変速機段数 備考
50cc
      
1962 RM62 空冷・1気筒 ロータリー・バルブ 8.0PS/10500RPM 8  
1963 RM63 空冷・1気筒 ロータリー・バルブ 11.0PS/13000RPM 9  
1964 RM64 空冷・1気筒 ロータリー・バルブ 13.5PS/14000RPM 9  
1965 RK65 水冷・2気筒 ロータリー・バルブ 14.5PS/16500RPM 12 & 10 主に12速を使用
1966 RK66 水冷・2気筒 ロータリー・バルブ 16.5PS/17000RPM 12  
1967 RK67 水冷・2気筒 ロータリー・バルブ 17.5PS/17250RPM 14 & 12 主に14速を使用
1968 RP68 水冷・3気筒 ロータリー・バルブ 19.0PS/19000RPM 16 計画のみ
125cc
        
1960 RT60 空冷・2気筒 ピストン・バルブ 13.0PS/11000RPM 6  
1961 RT61 空冷・2気筒 ロータリー・バルブ 15.0PS/10000RPM 6  
1962 RT62 空冷・1気筒 ロータリー・バルブ 20.0PS/10500RPM 7  
1963 RT63 空冷・2気筒 ロータリー・バルブ 25.5PS/12000RPM 8  
1964 RT64 空冷・2気筒 ロータリー・バルブ 30.0PS/13000RPM 8  
1965 RT65 水冷・2気筒 ロータリー・バルブ 31.0PS/13650RPM 9  
1966 RT66 水冷・2気筒 ロータリー・バルブ 32.0PS/13800RPM 9  
1967  RT67 水冷・2気筒 ロータリー・バルブ 35.0PS/14000RPM 10  
RS67U 水冷・4気筒 ロータリー・バルブ 42.0PS/16500RPM 12  
 
 下表に、50cc各機種の変速比(ギア比)を示す。
機種 RM62 RM63 RM64
変速機段数 8 9 9
M(モジュ−ル) 1.5 1.5 1.5
軸間距離 40.75 40.75 40.75
1速 38/15(2.533)→35/18(1.945) 35/19(1.843)  
2速 33/21(1.572)→31/22(1.408) 33/22(1.500)  
3速 29/24(1.208)→29/25(1.160) 30/24(1.250)  
4速 27/27(1.000) 28/26(1.077)  
5速 25/28(0.893) 26/27(0.963)  
6速 24/29(0.828) 25/28(0.893)  
7速 23/30(0.767) 24/29(0.828)  
8速 23/32(0.718) 23/30(0.767)  
9速 - 23/32(0.718)  
備考 オランダGPより1.2.3速変更    資料なし。RM63と同じと思う
 
機種 RK65 RK66 RK67
変速機段数 12 10 12 14 12
M(モジュ−ル) 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5
軸間距離 43 43 43 43 43
1速 36/20(1.800)→38/19(2.000) 36/21(1.714)      
2速 33/23(1.435)→34/23(1.478) 33/24(1.375)      
3速 31/26(1.192) 30/26(0.866)      
4速 28/27(1.037) 28/28(1.000)      
5速 27/29(0.931) 27/30(0.900)      
6速 26/30(0.867) 25/30(0.833)      
7速 26/32(0.813) 24/31(0.774)      
8速 25/32(0.781) 24/33(0.727)      
9速 24/32(0.750) 23/33(0.697)      
10速 23/32(0.719) 23/34(0.677)      
11速 23/33(0.697) -      
12速 23/34(0.677) -      
13速 - - -   -
14速 - - -   -
備考  途中より1.2速変更    資料なし
RK65の変更後の
12段と同じと思う
資料なし  資料なし
RK65の変更後の
12段と同じと思う
 
 
下表に、125cc各機種の変速比(ギア比)を示す。
機種 RT60 RT61 RT62 RT63 RT64 RT65 RT66 RT67 RS67U
変速機段数 6 6 7 8 8 9 9 10 12
M(Module) 1.75 1.75 1.75 1.75 & 2.0 1.75 & 2.0        
軸間距離 45 45 45 45 45        
1速 37/14(2.643) 37/14(2.643) 35/15(2.333) 34/16(2.125) 34/16(2.125)        
2速 32/18(1.778) 32/18(1.778) 32/18(1.777) 31/19(1.631) 31/19(1.631)        
3速 30/22(1.365) 30/22(1.365) 30/21(1.428) 29/22(1.318) 29/22(1.318)        
4速 27/24(1.126) 27/24(1.126) 28/23(1.217) 27/24(1.125) 27/24(1.125)        
5速 25/25(1.000) 25/25(1.000) 27/25(1.080) 26/26(1.000) 26/26(1.000)        
6速 24/27(0.889) 24/27(0.889) 25/26(0.961) 22/24(0.916) 22/24(0.916)        
7速 - - 24/27(0.889) 21/25(0.840) 21/25(0.840)        
8速 - - - 22/28(0.785) 22/28(0.785)        
9速 - - - - -        
10速 - - - - - - -    
11速 - - - - - - - -  
12速 - - - - - - - -  
備考   RT60と同じ   6.7速がM=2.0 RT63と同じ 資料なし 資料なし 資料なし 資料なし
 
 エンジンのレイアウトから変速機の「軸間距離」を決め、歯車の強度から「モジュ−ル」を決めると、この軸間距離・モジュ−ルから、選択できる歯数比の「合計歯数」が決められてくる。この条件の中で、多段ミッションの変速比を選ぶことになる。勿論、一次減速比(クラッチ容量・ミッションの回転数を考慮して決定)及び、二次減速比(前後のスプロケットの大きさを考慮して決定)を考えてのことである。すべての変速比が決まっても、歯車の大きさと軸径・変速の為のドックの設計の関係などから、最初からやり直しとなることもある。また、希望する様な変速比がない場合には、局部的に、モジュ−ルを変更して、適当な変速比を探すことも必要となる。RT63 ・RT64の6・7速がその例である。このように多段ミッションの変速比を決めることは、厄介な仕事である。
 
 これにも増して、手間 暇のかかったのは、歯車そのものの計算だった。変速比が決まっても、歯車の計算をしなければ、当然のことながら、図面は書けないし、製作手配は出来ない。当時は、コンピュ−タ−はなく、計算尺や手回しの計算機(グルグル〜チ−ンというタイガ−計算機というヤツ)の時代だった。朝から晩まで、「グルグル〜チ−ン」とやっても、2組の歯車計算は、やれなかった記憶だ。やっと計算が終わって、検算をしてみると、どこかが違っている。また、計算のやり直しということも、たびたびの事だった。なににしても、手間のかかる、根気のいる仕事だった。
 
 スズキを退職してから、「歯車計算プログラム」を一週間ほどかけて、作ってみました。軸間距離・モジュ−ル・歯数比・高歯か低歯か・工具圧力角は20度か14.5度か・バックラッシュはいくらにするのか・ねじれ角は何度」これらを入力すれば、瞬時に計算完了である。手回し計算機で何時間もかかっていたのが、1秒の何分の1かで出来てしまう。おまけに計算ミスは絶対にない。当時、コンピュ−タ−があったら、随分ほかの仕事が出来たのに・・・。時代の進歩を痛感する。 
 余談になりますが、小生の作った「歯車計算プログラム」には、NECの「DOS-BASIC」で作ったモノと、「Excel・Lotus123」で動くモノの2種類があります。
 「DOS-BASIC」の方は、「フロッピ−起動」にすれば、「DOS-BASICのプログラム」はインスト−ルの必要はありません。そして、必要数値を入力すれば、完全 全自動で歯車計算は完了します。但し、NECパソコンの古いタイプ「PC-9821」でなければ、動きません。1997年からの新しいタイプ「PC98-NXシリ−ズ」では、「DOS-BASICのプログラム」は、使用出来なくなってしまいました。小生は「DOS-BASIC」で、ほかにもいろんなプログラムを作りましたのでガックリです。全く、NECさんも罪なことをします。おかげで新しいパソコンを買っても、古い「PC-9821」が、捨てられず、2台持っている始末です(2001年1月遂に古いパソコンを廃棄してしまいました)。
 「Excel・Lotus123」でのプログラムは、「DOS-BASIC」でのプログラムのように、全自動で計算出来ず、1個所だけ「Excel」の場合は「ゴ−ルシ−ク」、「Lotus123」の場合は「バックソルバ−」を使う必要があります。
 もし、アマチュアの方で、マシンの改造のため、こんな「歯車計算プログラム」でも欲しいという方があれば、差し上げますよ。しかし、歯車について、「ある程度の」というか「相当の知識」を、お持ちになっていることが必要です。「歯車計算プログラム」で計算させれば、図面を書くための必要事項・加工時の必要事項は、全て計算されて出てきますが、これらの諸元で製作して本当に良いのかと言う判断が出来るかどうかということです。例えば、「噛み合い率」は、この値で大丈夫か?。もう少し大きく取りたいけれど、何を変えて再計算させれば良いのか?。また「計算プログラム」は噛み合う歯車の「等強度」を基本にしているが、計算結果を見て、「転位係数」の分配を、どのように変えて再計算させてみようか・・・・などという判断が必要になります。以上を、念のため申し添えます。
 
 尚、1962年以来、スズキをおびやかし続けたAnscheidtの乗るKreidler 50ccの変速機は、手動3段×足動4段の計12段変速であった。この変速機を自在に操れたライダ−はAnscheidtだけだったと思う。1964年には、名手Taveriが最終の日本GP以外の全レ−スにKreidlerで出場したが好成績は残せなかった。このシ−ズンにはProviniも前半4レ−スにKreidlerで出場したがTaveri同様好成績は残せなかった。1962・1963年とスズキに選手権を奪われたKreidlerの選手権奪取の意気込みが感じられる年だったが・・・。 
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