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1976年12月号「モーターサイクリスト」掲載記事

             スズキ初のDOHC 4気筒・GS750

 スズキ4サイクル第1弾、GS750の初乗りは、スズキの竜洋テストコースで行った。静かでスムース、しかもパワフルなエンジンは、2サイクルメーカーが造ったものとは思えないほど。乗車感は全体的にソフト。が、飼い慣らされたネコではなく、ツメを隠した猛禽というイメージ。表面おだやか、実は純スポーツの血がたぎるホットなマシンなのだ。

ソフトな味わいの快適バイク

 一見マイルド、実はすごみのある走りっぷり−GS750の試乗印象はこういうものだ。トップギア15km/hから最高速まで常にスムースに回るフレキシビリティに富んだエンジン、柔らかなサスペンション、適度にたわむフレームなど−。全体にソフトフイーリンクではあるが、それはかなり高度なレヘベルでのソフトフィーリングなのだ。エンジンは9500〜10000rpmも回って十分なパワーを持ち、サスペンションはダンバーのよくきいた上での柔らかさ、というぐあいなのだ。

■振動少なくパワフル

 最大出力は68ps/8500rpm。しかし私は9500〜10000rpmも回してしまつた。なんの変調もなく、軽く回ってしまうのてある。

 このGS750のDOHCエンジンは、またごく低速でもスムーズに回転し、トップギアでの最低速度は約15km/h。スロットルをゆっくり開けていけばスムーズに加速する。もっとも急激にスロットル全開にするとエンジンが沈黙するのは他車と同じだが速度が50〜60km/hになれば、このような現象はなくなる。あとは最高速まで、ほとんど振動らしい振動も出ず、きわめてスムーズに加速する。ラバーマウントきれたバックミラーは、いかなる時も映像の乱れがなく、非常に安心できた。

  5段リターンの変速機は、GT750、GT550と同様のもので、ギアレシオも ほとんど同じだが、1速はG T:2.846 に対して、GS:2.571と高めにセットされている.各ギアで9000rpmまて引っぱると、1速で70、2速て105、3速で130ちよっと、4速て170弱(各km/h)となる。1度4速でめいっぱい開けてみると、回転は10000rp近くまで上がり、スピードメーターは180km/kmを超えてしまった。非常に伸びのいいエンジンである.、トップギアでは、追い風で190km/hフルスケールのメーターをふり切ってしまい、向かい風では180ちょつとといったところだ。出力のピークを過ぎても急激なパワーダンがないのでムリがきく感じ。ちなみに、このエンジンの許容回転数は10800rpmとのことだった。

■丸ぼうずタイヤでも真っ直ぐ走る?

 GS750の試乗会は1周6.5kmのスズキ竜洋テストコースて行われた。本誌からの参加は、大光明、福島、それにフリーランスのいわた・げんの3名。またがってみると、GT750よりはだいぶ小さい。が、わりと小さくまとつた、という、前評判から想像していたより大きく、やはリ 750の大きさがある(いわた)。しかし、空車時て850mmといシー卜高は、なんといっても足がつきやすく取り回しを容易にしている。

 セルモーターはもちろん付いているが、私は念のためキックで始動してみた。これが非常に軽いのだ。また、踏み下げストロークも十分にあり、仮にセルがなくとも不便はない。

 4 in 2のマフラーから出る排気音はは、静かではあるが変にこもったような低音でない点がいい。工ンジンのメカニカルノイズも少なしい。

 スタートは、1500〜2000rpmでクラッチを繋ぐと、スムーズだ。ぐっと加速して2速へ入れる。GT750だとここでガチャン、とチェンジ時のショックがあるのだが、このG Sではショックはずっと少ない。

 ラィデイング・ポジション特徴は、ステアリング・ヘッドからシートまでの距離が長く(CB750F-Uほどではないが)、わりと後方にすわる感じだ。しかし、フートレス卜も比較的後方に取り付けられているし、ハンドルもそのクリップ部が手前に引かれているので、不自然な感じではない.私はこれで良いと思つたが―ハンドルバーはヨーロッパ向けの短いほうがいいのでは(いわた)という声もある.確かにアップハンドルでの高速走行は非常に苦しいものだ。

 高速走行での直進性は非常によかった。”向い風で着座姿勢を変えて車体を振ってみたが不安がない(福島)”のだ。”丸ボウズタイヤでもこのGSは真っ直ぐ走りますよ”とスズキの技術者も語っているほどなのだ。

■素直な操縦性

 車重は国産の4気筒750の中では最も軽い223kg(乾)。とはいえCB750F-U225kg(乾)よリ2kg軽いだけ。人間の力で車体を押したり引いたりするときは、やはリナナハンとしての重さに変わりはなしいのだ。メインスタンドも、他の750と比べて平均的な重さで、もっと軽いのにこしたことはない。

 しかし、いったんエンジシを始動し、走行に移ると、押していたときの重さはウソのように消える.キャスター63゜、「トレール106mmのアライメントや、1名乗車(60kg)で前車44.6%、後ろ55.4%となる前後荷重分布などがうまくマッチングしているのだうう.。

 コーナリングも素直な倒れ込み方で、安心できるもの。4 in 2マフラー採用によリバンク角は左右45゜もあって、サーキット走行にも不安がない。右側は、フートレストの先端と、エギゾーストパイプとラフラーのつなぎめが、左側もフートレストが接地したが、これはグリップのいいサーキットの路面だからこそ可能なのだ。一般路では、接地する可能性はきわめて少ない。

 130〜140km/hの高速で切り返すS字コーナーでも、車重を感じさせない軽快さだった。サスペンションのダンパーもよくきいており、切り返し時にも不安定にはならない。

 ところで、試乗車は3台あって、うち2台には輸出用(ヨーロッパ向け)のフロント・フォークが装着されていた。国内用フオークはやや柔らかすぎ、輸出用のほうが、サーキットを含めた高速走行には向いている感じだつた。

 ブレーキは前後ともディスク式。ききとしては”フロントがスポンジイな感じて、リヤはききすぎ(いわた)というもの。F・ブレーキレバーはかなリ力き入れてもいいが、リヤは加減して‥・という使い方が要求される。“リヤディスクの必要性は感じない(福島)”のだか、あたりは、コストと商品価値と微妙なバランスでも変わってくる。フロント・ダブルディスク/リヤ・ドラム式よリユーザーは前後ディスクに魅力を感じる、とメーカーは計算したのだろう。

 スズキの車は耐久性と信頼性があることでは世界的に定評がある。そこで“4サイクルても信頼を裏切ってはならない(メーカー)”ということで、開発期間はかなり長かったはずだ。そして、登場したGS750は、我々テストスタックを失望させない仕上がりだった。“おだやかそうだが回せば速く、しかもライダーをせっつかせない落ち着きがある(福島)”と従来のナナハンとはひと味違うよさがあるのだ。外観こそ人目をひくものではないが、走る楽しさという点では一歩進んだ新750がGSてあるといえよう。(本誌・大光明)

正統派メカニズムのオールラウンダー

■ツインカム4気筒

 きれいにバフ仕げされた、真円のカム軸ケース、サイドカバーが印象的なツインカム4気筒。

 2一3、3−4気筒間の、それぞれ2個の軸受けの形状をなぞったようなコンパクトなカム軸カバーは、ほぼH型をしたアルミ一体。中央にはコブ状のブローバイガス・フィルター室を設けている。10°前傾したシリンダーグに吹きつける走行風を、2、3気筒のスパークプラグ周辺へ導く導風板(ラム・エアー冷却と呼ぶ)が、”スズキ製4サイクルであることを主張している。

 カム軸駆動は、クランク軸中央の1ステージ単列ローラーチェーン。シリンダー前面には、ほぼ全面にわたってソリ型ガイド、上方2個のカム・スブロケット間のアイドラー、そしそ後方にはカムとプッシュロッドを用いた独特の自動調整式テンショナーを配し、確実、静しゅくな作動を保証している。バルブ作動は、もちろん、カムがシムを介してステムを押す−いわゆる直接式。バルブ・サイズは吸36mm、排30mm¢と、65mmのシリンダー・ボアに対して、

      
硬質ゴムのチェーン・テンショナーにはスプリング、
カム、プッシュロッドなどで構成される、自動式テンショナー
・アジャスターが付いていろので調整不要。

きわめて大きい価をとっている。バルプ”はさみ角”は60°。バルブフェースは、吸入側高周波焼き入れ、排気、ステライト盛り。バルブ・シートは吸・排気とも特殊焼結合金を採用している。むろん、無鉛ガソリン使用可能。バルブ開度は、吸・排気とも280°の対称型(オーバーラップは60°)。遠心式アドバンサーを用いた進角特性は、点火時期上死点前17°―進角開始1500rpm、点火時期上死点前37°―2350rpmと、比較的高出力を狙ったチューニングをしている。

                      

■組み立て式クランク

 クランク軸は組立て式。3−4気筒間の1次駆動ギア(平歯車)も別体の9ピース構成である。軸受は6カ所、右端ボール以外は、すべてローラーベアリングを採用。

 ピストンはへッドを高く盛りあげたフルスカート型。リングはトップがハードクロムメッキをほどこしたバレル型、セカンドはテーパー、オイルリングは組み合わせタイプ。

 点火はバッテリー/2コイル/2ポイント式。クランク軸左端にアマチュアをクランクケース・カバーに止めたACG、右端にに2個のポイントと自動進角用ガバナーをセットしている。

 潤滑はウエットサンプ。シングルトロコイド・ポンププは、クラッチハウジング内側に設けられたギアて駆動されている。エンジンだけではなく、変速機メイン、カウンター軸への潤滑を行っているのが特徴である。オイル容量は3.4リッター。

 変速機は、GT750 (輸出仕様)のパーツを大幅に流用している。変速比もローギア(GT 2.846、GS 2.571)を除けば同じである。

 最終駆動はチェーン、グリスを封入した630という太いサイズを用い、耐久性に万全を期している。

 エアークリナーは含油ウレタン。4 in 2排気系は、全面に二重構造を採用し、変色を防止している。消音効果も高い。

■ニードル・ベアリング

 フレームは、ノッポのツインカムエンジンを積むために、ステアリンク・ヘッド部を高くとつたダブルクレードル・タイプ。相対的に、ミー卜高を下げるために、シートレール降りだし部は低く、全体のプロポーションは、最新のロードレーサーを想起させる。シート高は805mm(空車状態)に抑えている。

 フレーム・パイプは、最大34mm(肉厚2.0mm)という外径をもつ、・大径パイプを主に用い、高い剛性と軽量化を併せ獲得している。スイングアーム・ピボット軸受にニードルローラー・ベアリングを採用していることも注目される。

 前輪テレスコピック・サスペンションには、長短2本のスプリングを内蔵している(ヨーロッパ仕様)ダンパーは単動式。前輪アライメントは、キャスター63°、トレール106mm.。フロントフォークの作動ストロークは、160mm。

 ブレーキは、前輪浮動キャリタイアパーのシングル、後輪はロッキード・タイプの対向ピストン型を採用.ステンレス系、7mm厚のローターは、前 244、後255mmの有効径をもつ。

 タイヤは前3.25H19、後4.00H18(ブリヂストンまたはイノウエ)を1.85×19、2.15×18のスチールリムに装着している。

■オールラウンド 750

 比較的長いガソリンタンクは、18リッターの容量をもち、250km以上の航続性能を確保している。タンク・キャップ、後ヒンジ、ロック付きのカバー付き。フレームヘの支持は、前方ゴム・ブロック2個、後方ボルト1本のため、脱着は容易である。

 シートはタテに浅いタックをもつ比較的フラットな形状。しかし、地上高は十分低く、シート下、ステップまわりにも、乗車姿勢を妨げる突起物はない。ステップはラバー・マウントされている。

 シート後方に伸びたシートカウル内はラゲッジ・スペースになつている。プラスチック製のフタが付いており、実用性は高し。シートは横開き。シー卜下には、バッテリー、工具などが格納されている。レギュレーター、整流器(シリコンダイオード)などの電装品は、左サイドカバー内に収まつている.エアクリーナー・エレメントは、エアチャンバー右側のカバーを外し脱着する。

 メーターは、暗赤色のベースカラー。照明も同色が用いられている。とくに暗夜の走行の眩惑防止に効果するといわれる。インジケー夕一・パネル上には、もちろんスズキ独特のデジタル・ギア・インジケーターを装備。

 正統的なメカニズムと、おだやかなデザイン。スズキGS750の走行性能は”マイルド”を基調にしているが、ザッパー的性格も秘めている。いうなれば”オールラウンダー”である。

(いわた・げん)


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