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男達の熱血冒険活劇に魅せられて
  たぶん皆さんと同じように、ボクも子供の頃に体験した「雑誌の中のレースの世界」が、その後の趣味や興味、さらにはモータースポーツの世界に関わりを持つようになる大きなきっかけとなっている。朝日グラフだか毎日グラフだか太陽だか、良くは憶えていないのだけれど、その手の大判サイズのグラフ誌に躍る「バイクレース」が、小学生だったボクの脳とか心とか、とにかくまだまだ純真で敏感な部分にビビビッと入り込んでしまったのだった。

 それがまさに「60年代の日本車によるGPへの挑戦」の模様だったのだから、少年の胸は躍り鼓動は高鳴なったのは言うまでもない。それを読んだ(単純に「見た」だけなんだけど)ボクは、単に「バイクがカッコイイな〜」とか「すっげ〜傾いて走るんだな〜」とか、そういうものに魅せられたのではなく、そこに短い文章で書かれてある(グラフ誌だから、あんまり解説は多くないんですよね)異境の地で奮闘する男たち…みたいな部分に反応して、まさに「熱血冒険活劇」の一片を読む感動を味わっていたのかもしれない。

 今みたいにインターネットだとかTVのライブ中継があるわけではないから、去年のレースのことが平気で翌年の号に出ていたりするんだけれど、そういったグラフ誌が高くて買えなかった(いまの金銭感覚でいうとナン千円っていう感じだったと思う)ボクは、近所の小さな銀行に置いてあるグラフ誌を見に、預金したお年玉をチビチビおろしに行ったりもした。もちろん普段の生活では、少年マガジンとか少年サンデーがボクらの年代の必読書だったのだけれど、密かに知ってしまったグラフ誌の官能の世界は、それらの漫画誌に載る「戦艦大和解剖図」とか「零戦開発秘話」なんかよりはるかに魅惑的で、なぜかボクの心を鷲掴みにしてしまったのだからしょうがない。

 そんなボクは、小学校時代に「東京オリンピック」という強烈な洗礼を受けた。東洋の魔女の優勝に熱狂し、赤鬼ヘーシンクの圧倒的な威容に打ちひしがれ、甲州街道まで見に行ったマラソンでは円谷の悲痛なゴールに悔し涙したのを憶えている。子供心に、勝った負けたよりも選手達の歓喜や苦闘の表情がスポーツの最大の魅力であることは痛いほどわかった。愛読書であるグラフ誌は、このオリンピックの特別号を相次いで出し、大好きだったバイクレースの記事はどこかに追いやられてしまったが、気持ちの上での満足は決して目減りしてはいなかったし、バイクレースに次いで素晴らしいモノがこの世に存在することを知ってしまった生意気盛りは、友達をつかまえてはその素晴らしさを解いてまわったのだから手に負えない。

 中学生になると、ごく当たり前のように、ラジオの深夜放送を聞く。ちょっとエッチな内容にドキドキしてみたり、流行りの曲を一生懸命エアチェック(死語?)してみたり、まあ一般的な少年として小さなAMラジオが深夜の友達になったのだけれど、オールナイトニッポンやセイヤングより、ボクはTBSの「パックインミュージック」の第二部(深夜3時からなんですよこれが)に吸い付けられていった。石川顕さんという若手アナウンサーがやっていた「スポーツ名場面物語(正確にはどういうタイトルだったか定かではない)」は、誰もが知っているスポーツの名場面/名試合/名選手をドラマチックに掘り下げて描いたラジオドラマ風の仕立てで、ボクはその放送を聞いて明け方の布団の中で何度涙したかわからない。

 そんなこんなで思春期を迎えたボクに決定的な影響を与えたのが、バイクそのものと、その後に出会う司馬遼太郎の数々の著作だった。バイクは数え切れない程の人との出逢いを与えてくれたし、旅する中に幾多の冒険活劇も体験させてくれた。司馬さんの作品の「綿密なひも解き」と、創作であっても「フェアな考証」を貫く視点の心地よさを味あわせてくれたことは、後に文筆を生業の一部とすることになる大きな発端ではなかったかと思う。もちろんF1やなんかの4輪レースにも人並み以上に興味を持ってはいたけれど、ファンの立場から傍観することが自分に向いているようだった。ところがバイクのレースになると、いつの間にか同志のような共感とのめり込みを感じてしまうのだからしかたがない。無理せず背伸びせず、ボクはバイクのレースとずっと付き合ってみようと思った。

 最近のボクのお気に入りは、NHKの総合で放映されている「プロジェクトX」だ。2000年の3月28日に開始されたこの番組は、中年の扉を開けてしまったボクたちの世代だけでなく、若い世代や女性にも大きな感銘を与える秀作を次々とブラウン管に送り続けている。
 NHKのHPにあるその番組解説に曰く…
 『20世紀後半、人類の歴史と文明を劇的に変えたのは「プロジェクト」である。「プロジェクトX」は、熱い情熱を抱き、使命感に燃えて、戦後の画期的な事業を実現させてきた「無名の日本人」を主人公とする「組織と群像の知られざる物語」である。
 今も記憶に新しいあの社会現象、人々の暮らしを劇的に変えた新製品の開発、日本人の底力を見せ付けた巨大プロジェクト…。戦後、日本人は英知を駆使し、個人の力量を"チームワーク"という形で開花させてきた。戦後日本のエポックメイキングな出来事の舞台裏には、いったいどのような人々がいたのか。成功の陰にはどのようなドラマがあり、数々の障害はいかなる秘策で乗り越えられたのだろうか。
 番組では、先達者たちの「挑戦と変革の物語」を描くことで、今、再び、新たなチャレンジを迫られている21世紀の日本人に向け「挑戦への勇気」を伝えたいと考えている』…とある。

 ボクは、こんな事を「これまでのHondaのレース活動」を主題にして出来るのではないかと考えた。「異境の地で奮闘する男たちの熱血冒険活劇」を、「ライダーや技術者の歓喜や苦闘の表情」を、そして「レース名場面物語」を、「綿密なひも解きとフェアな考証」で物語化することを。そしてボクは、思いつくままにいくつかのテーマをひねり出してみた。

「魂の5気筒、RC211V」4スト多気筒の再挑戦
「南半球に朝日は昇った」1954、サンパウロ出場
「そして男達は海を渡った」1959、マン島出場への道
「スティーブ、待ってくれ!」Honda モトクロスマシンの誕生
「神と呼ばれた宣教師」Honda トライアルマシンの誕生
「切れ切れに聞こえた君が代」日本人GP初優勝
「土の上のダヴィンチ」80年代モトクロスマシンの進化
「狂乱の6気筒シンフォニー」6気筒マシンの時代
「真円は、真理なのか」NR500デビュー
「夜明けは、まだか!」耐久RCB艦隊の挑戦
 etc.etc...。
 媒体は大判グラフ誌からインターネットに変わったけれど、そして時代は21世紀を迎えたけれど、「男の子たちが胸躍らせるレース物語は永遠に不滅だぁ!」と信じつつ、そろりそろりと筆を進めてみようと思っている。
 はたして60年代のグラフ誌に勝る、鮮烈な印象を与えることが出来るかどうか。興味のある方はぜひのぞいてみて下さい。

   2輪モータースポーツアナリスト 野澤隆彦

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